「なんとかしたい。けど、治療をしないことが彼女にとっての最善の治療でもあるんだよ。無理に手術をして脳を傷つければもっと彼女を余計に苦しめることになる」


それを聞いて、俺は先生の白衣をぐっと掴む。


「……なんだよ、それ。あんた有名な医者なんだろ?地方からも患者が来るほどの腕を持ってるんだろ!?だったら、治してくれよ!海月の腫瘍を早く消してくれよ……」


俺はうなだれるように訴えた。


海月が助かるなら、なんでもする。

だからあいつを連れていくな。


海月を、遠い場所に連れていかないでくれ。



「今は眠っているけど、落ち着いたらじきに目を覚ます。だから彼女の傍に付いててあげてください」

「……っ」


俺は本当に無力だ。


 
海月は集中治療室から一般病棟へと移された。家族にも連絡したと看護師が言ってたから、そのうち岸たちも来るかもしれない。


俺はベッドで眠る海月の顔を触った。


まだ体温があることにホッとして。だけど、海月の命の期限が迫っていることは紛れもない現実で。


俺はもっと自分が強い人間だと思ってた。


でも違った。俺はこんなにも弱い。弱い……。