「ど、どこでもいいよ!地球の裏側だって俺は海月と行きたい!」
高鳴った気持ちを押さえられずに、つい声のボリュームを再び大きくしてしまった。
「地球の裏側は行きたくないけど……朝日が一番綺麗な場所になら行ってみたい」
「朝日?」
「……うん。私は1日の始まりが一番嫌いだから」
先ほど見せてくれた笑顔が水槽に浮かぶ気泡のようにゆっくりと消えていく。
「今日は楽しいことがあるかも、今日はいいことがあるかも、なんて期待した朝は1日もなくて、起きた瞬間から私はいつも憂鬱。だから綺麗な朝日を見られたら、そういう気持ちごと吹き飛ばしてくれるんじゃないかって……」と、海月が物思いにふけたところで、ハッと我に返ったように言葉を止めた。
「ごめん、いきなりこんな話……」
長い黒髪を右耳にかけて、海月は気まずそうに下を向く。
海月がこんなにも自分の気持ちを話してくれたことは今までになかった。
俺に心を開いてくれてるのか、それとも昔飼っていたクラゲを思い出したからなのかは分からない。けれど。
「なら、俺とこれからいっぱい楽しいことしようよ。俺、予定立てるし、朝起きたら海月とその日にすることを決めるから」
「……いいよ、そんなの」
「嫌だ。俺は海月に楽しいと思ってほしいし、嬉しいと思ってほしいし、さっきみたいに笑ってほしい」
今までできなかったのなら、そのぶんも。海月は眉を下げながら俺のことを見つめていた。そして……。
「……私、やっぱり佐原のことだけは巻き込めない」
ぽつりと言った言葉は、館内に流れたアナウンスによってかき消されてしまい、俺の耳には届かなかった。