「杏那」


懐かしい声音に、ハッとなる。
そういえば、さっきも口にされた、私の名前。


「わがままなのは重々承知。でも、僕は杏那に生きて欲しい」


弘海先輩の表情からは寂寥が消え、柔和と愛しさが滲んでいた。

喉が詰まる。
目の奥が、焼けるように、熱くなる。
栗色の瞳に全てを制御されたように、動けない。逸らせない。


「もし迷ってるなら、生きてみよう。一緒に」