「逃げるなって、そう言いたいんですか?」

「違う」


私が意を決して放った問いかけを、弘海先輩は一刀両断した。
抱えていたランチバッグをぎゅっと握りしめると、中でコンビニの袋がガサリと音を立てた。
弘海先生はパイプ椅子の背もたれに手をついたまま、私を見る。


「あの時の表情が忘れられなくて、僕の判断は間違ったんじゃないかってずっと後悔してたんだ。だから、本当は会うのも怖かった」


怖かった? 何だ、それ。
怖かったとかいう割には、大胆なことして来た。
例えば、脅し、とか。


「じゃあ、この前のは何だったんですか」

「一種の、賭け」

「賭け?」


それはつまり、私がもう一度死を企てる勇気があったかどうかと言うこと?
結局あの時死ぬ機会をの逃したお前の意志は、その程度だったって、そう言いたいの?