「えっと……」

「花純先生は、英語科の涼子先生のところに行ってますよ」


想像していたより柔らかい口調で、ホッとする。
でも、語尾には敬語。
ここでも、先生と生徒の一線を示される。

そこで、思い出した。
この人にハンカチを返すつもりだったこと。


さっさと返して、帰ろう。
そしてもう、二度とここには来ないでおこう。


「あ、あの」

「待ちますか?」

「え?」


ポケットの中からせっかくハンカチを取り出しかけたのに、おもむろに立ち上がった弘海先輩は、隅の方でたたまれて置いてあったパイプ椅子を広げて、


「話し相手に来たんでしょ?」


私が抱えていたランチバッグを指差した。

あっさり私の期待は砕かれたので、居座ることはしたくない。
花純先生を待っていたら、試したのは私なのに、試された側になってしまう。
これ以上、惨めにはなりたくない。

それに、単純に弘海先輩と二人でいるのは、非常に。


「気まずい?」


図星を突かれて、口をつぐむ。