幸い私には、弘海先輩から預かったハンカチがある。
今朝もまたきいちゃんに頼もうかと思ったが流石に二回も頼むのは気が引けて、そのままスカートのポケットに入れっぱなしだった。

それを口実に国語ゼミを訪れて、花純先生がいるか確認してみよう。

昨日の今日だ。
もしあの言葉が本物なら、花純先生のことだからゼミ室にいるはず。
いなければ、体育館にでも行こう。
ギャラリーから下に続く階段は人通りも少ない、そこなら人目にもつかない。


そんな言い訳を携えて、お昼休みはサンドイッチの入ったランチバッグを持って二階に下がった。

中学生から高校生まで、いろんな人が行き交う中を、国語ゼミまで進む。
昨日と変わらずにそこにある鉄の扉。


二回ノックする。


「失礼します……」


声をかけながら重たい扉を押しあけると、奥の方に花純先生の姿はなかった。