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弘海先輩と初めて会ったのは、中学三年生の夏。
あれは、体育の授業でソフトボールをやっていた時だった。
全身に日焼け止めを塗りたくって、照りつける紫外線に、暑い暑いと文句を言いながらボールを投げて、バットを振っていたその日、私は鈍臭いことに転けてしまった。
向かって来た変化球を打ち返したはいいものの、一塁に向かって走る途中で、盛大に石ころに躓いた。
幸い流血までしなかったものの膝を擦りむいたので、授業が終わってから砂を落とそうと、体育館裏の水道に足を運んだ。
体育の後、体育館の洗面所はいつも混むからだ。

そしたらそこに先客で、当時高校三年生の弘海先輩がいた。
中学生と高校生ではホームルーム教室と、専科の教室が分かれているくらいで、家庭科室も音楽室も、美術室、体育館、グラウンドだって共用だ。だからそんなところに高校生がいたってなんの不思議もないのだが、在ろう事か弘海先輩は、端の蛇口についていたホースで頭から水を浴びていた。
衝撃的な出会いだった。

ええー、何このひと。
たしかにその場には私たち以外人はいないけれど、それにしても、頭から水かぶっちゃってパンツとかパンツとか、パンツとかは大丈夫なの?
しかもまだこれから午後に授業もあるよね?
すっげー、ヤバイ人ー!

そんなちょっと変な人がいるのに、のこのこ傷に水を注ぐなんてできっこないので、建物の陰から退くのを見守っていたのだが、不意に顔を上げた弘海先輩と目があってしまった。