一人取り残された私は、とりあえず散水ノズルを拾い上げ、残りの花にも水をあげた。

今度は幻なんかじゃない。
風のように弘海先輩はすぐに消えたけれど、確かに、間違いなく、ここに立っていた。


さらさら、さらさら、水が流れて、葉っぱや花が、水滴を纏う。


もっと、何か言われると思っていた。

例えば、「なんであんなことしようとしたのか」とか。


だってあの時、弘海先輩は「どうして」と聞いてきた。
「関係ある」と凄んできた。

なのに、いざ再会して脅してきたかと思えば、わりとあっさり立ち去って。
何がしたいのかわからない。
真意が測りかねる。

でもとりあえず分かったのは、弘海先輩もこれ以上私に関わるつもりもないのだろうということ。
返してくれなくていい、というのは弘海先輩の予防線だ。
それが先生としての立場なのか、あるいは目撃者としての立場なのかははっきりしないが、私との関係には区切りがついたのだ。
そもそも、そんな関係すらあったのか怪しいが。