「使って」


弘海先輩は半ば嘆願するような声音で言った。
でも、私は首を振った。
借りたら、また返さなきゃいけない。
もう二度と会いたくない。
会わなくて済むと思ったのに。


「濡れてるじゃん」

「……結構です」


キッと睨みつけても、動揺一つ示さない。
親切心から、という作られたその態度に嫌悪感を抱く。

すると、弘海先輩はそのハンカチで無理やり私の顔を拭いてきた。
すぐにその手を払いのけても、弘海先輩は立ち去る気配もない。
なんて強引だ。
私の意思なんか丸無視。

なら私が去るしかない。
週末明けてホースが片付いてなくても、私のせいじゃないし。

地面に落ちたヘッドもそのままに、踵を返してその場を去ろうとした。
けれど腕を引っ張られて、引き止められてしまう。


「守らなくてもいいの?」