水道管に巻きつけたホースヘッドから、水を出して手を洗うきいちゃんに私もならう。
濡れた手のひらを拭こうとスカートのポケットに手を入れて、自分のリネンのハンカチのほかにもう一つ、ビニールに入れたチェック柄の綿のハンカチが入っているのを思い出した。

昨日帰宅して、一応洗濯してアイロンもかけた、チェック柄のハンカチ。
会えることを望んでいたわけではなく、もし仮に会ってしまったら突き返そうと思っていたもの。

迷ったけれど、私は恥を忍んで、口を開いた。


「きいちゃん」

「はい?」


きいちゃんは桃色のハンカチで手を拭きながら、顔を上げた。


「頼み事、してもいい?」

「……頼み事、ですか?」


きいちゃんはパチクリと睫毛を瞬かせた。
驚くのも無理はない。だって一年少しの付き合いで、お互いに何かを求めたことはなかった。
なんでも勝手に、というスタンスを貫いて今までだって関わってきたのに、まして頼み事など。
でもこの場合プライドなんてものは一切捨てた。背に腹は変えられない。
どうせこの子も、すぎて行く時の中の一瞬の人だ。