話を聞いている間に、全部の水やりを終えたきいちゃんに代わって、私がホースを受け取り、水道管に巻きつける。
こういうのも分担作業。お礼は言わない。
あくまで勝手にやってること。
部活で上下関係が身についてるきいちゃんに、私が言わないでおこうと言った。


「まあうちの脳筋ゴリラが遅刻なんて許すはずもないんで、昨日のお昼休みに体育教官室でこっぴどく叱られていたらしいですけど」

「ちょっと、脳筋ゴリラって」

「だって、先輩もそう思うでしょ? だから今日は遅刻しないといいね、先生。って感じです」


笑いの下に動揺を隠す。
きいちゃんは微塵も感じ取っていない様子だった。

今朝は弘海先輩に会わなかった。
でも、これから三週間もこの学校に通うなら、使う路線は一緒のはず。

なら昨日会った弘海先輩は幻覚でもなんでもなくて、紛れもなく本人だったのだ。
憂慮が絶えない。

もしかして先輩は、昨日の私のことを誰かに喋っただろうか。
生徒が仮にも自殺未遂を起こした。そのことに、弘海先輩は気づいていた。
先生の卵である以上、それは見逃せない事実だろう。
変に正義感を持たれて、報告でもされたらたまったもんじゃない。
口止めしなきゃ。

でもどうやって?