「いいよ。なに?」

「いつかの質問の答えです」

「質問?」

「あ、でもその前に。弘海先輩は、私のことどう思ってますか?」

「……散々僕の話聞いておいて、キスまでしたのにそれ聞くの?」

「言ってくれなきゃわかんないですよ」


困ったような、嬉しそうな、弘海先輩ははにかんで、


「杏那が好きだよ」


首を傾げて、眉を下げた。
緩んだ口元には優しさが滲んで、胸が甘さで締め付けられる。
何か言葉を発したら泣いてしまいそうな衝動を抑えて、口を開いた。


「弘海先輩」

「うん」


笹舟に乗せた想い。
興味本位、だったかもしれない。
でもあれは、私の本心でもあった。


「私、あなたに出会えてよかったです」


朝陽は右手の方から、静かにその顔をのぞかせた。
眩しいその光の泡に遮られて、弘海先輩の表情が分からない。

高鳴る胸は収まることを知らずに、胸を打ち続ける。
かあっと喉元にも、目の奥にも熱が集まる。
途端、ふっと視界が暗転したと思えば、またその温かい胸に抱き寄せられた。

同じ速さで動く、弘海先輩の鼓動も感じる。

弘海先輩は私の肩に腕を回し、朝日から覆い隠すように私を抱きしめる。


「杏那」


鼓膜を叩く、甘い声。


「はい」

「僕ら、また会えるよね」

「……弘海先輩が国語ゼミに来てくれたら」

「なんだ、それ」


会える。
きっと私たちは会える。
文明の利器がなくたって、約束をしなくたって、私たちは必ず会える。

そして同じ夢を見るんだ。
お互いが欠けることのない、永遠の夢を。





–完–