「弘海先輩」

「うん」


ゆっくりと離れていく唇。
風が熱を奪うようにさらりと撫でていくけれど、感触ははっきりと残っている。


「消えた時に備えて、一言言わせてください」


私と弘海先輩の空白の時間。

それを全部埋めることはできないけれど、これからは同じ速度で、同じ時間を一緒に過ごしていける。同じように見て、同じように触れて、同じように呼吸ができる。

隣で、一緒に、二人。


でも、そんな日も突然失われてしまうかもしれないから。


「消える前提で話すんだね」

「私じゃなくて、弘海先輩の方ですよ。ないとは言い切れないでしょう?」


いつかとはまた立場が逆になる。
弘海先輩は観念したようにふっと笑った。