*
鳥のさえずりが聞こえる。
白んで来た空に、濃紺は姿を消して、世界は蒼色。
キンと冷えた空気を胸いっぱいに吸い込むと、目が覚めて、周りがもっと澄んで見える。
静かな朝に、私たちは2人だけだった。
帰るという弘海先輩を、外まで見送ることにした。
寒いから中に入っていていい、と言われたけれど、去ってゆく背中をどうしても見送りたかった。
「もう直ぐ、陽が上がるかな」
エントランスの前で弘海先輩は東側を向いて言った。
かじかむ指をブルゾンのポケットに突っ込んだその手首には、ヒビの入った腕時計がつけられている。
私が見つめていたことに気づいて、弘海先輩は笑って首を傾げて見せた。
「弘海先輩」
「うん?」
「あの約束今でも有効ですか?」
あの日果たされなかった約束。
この冬を越せば、また私と弘海先輩は会えなくなる。
弘海先輩は今は引っ越して、私と同じ駅を使ってはいないそうだ。
私の職場である塾も、学校からは反対方向にあるから、もう偶然は期待できない。
弘海先輩は少し驚いて、でもポケットから携帯電話を取り出した。
「五年越し。足掛け十年? 漸く僕の願いが叶う」
「……随分、お待たせしました」
私もポケットの中から携帯電話を取り出す。
文明の利器はすぐに弘海先輩の存在を、携帯電話に残した。
こうすると改めて弘海先輩と私は今同じ時間を刻んでいるのだな、と思う。
2人して連絡帳を開いて、しばらくそれを眺めていた。
鳥のさえずりが聞こえる。
白んで来た空に、濃紺は姿を消して、世界は蒼色。
キンと冷えた空気を胸いっぱいに吸い込むと、目が覚めて、周りがもっと澄んで見える。
静かな朝に、私たちは2人だけだった。
帰るという弘海先輩を、外まで見送ることにした。
寒いから中に入っていていい、と言われたけれど、去ってゆく背中をどうしても見送りたかった。
「もう直ぐ、陽が上がるかな」
エントランスの前で弘海先輩は東側を向いて言った。
かじかむ指をブルゾンのポケットに突っ込んだその手首には、ヒビの入った腕時計がつけられている。
私が見つめていたことに気づいて、弘海先輩は笑って首を傾げて見せた。
「弘海先輩」
「うん?」
「あの約束今でも有効ですか?」
あの日果たされなかった約束。
この冬を越せば、また私と弘海先輩は会えなくなる。
弘海先輩は今は引っ越して、私と同じ駅を使ってはいないそうだ。
私の職場である塾も、学校からは反対方向にあるから、もう偶然は期待できない。
弘海先輩は少し驚いて、でもポケットから携帯電話を取り出した。
「五年越し。足掛け十年? 漸く僕の願いが叶う」
「……随分、お待たせしました」
私もポケットの中から携帯電話を取り出す。
文明の利器はすぐに弘海先輩の存在を、携帯電話に残した。
こうすると改めて弘海先輩と私は今同じ時間を刻んでいるのだな、と思う。
2人して連絡帳を開いて、しばらくそれを眺めていた。