「案外自分で思っているよりも壁は薄かったんだ。周りも周りで僕の入学に戸惑っていたらしい。編入受けて入ったなんてどんなスカしてるやつだろうと思って、声かけづらかったって、後から知ったんだ。お互いにお互いを探ろうとしすぎて結局うまく行ってなかった。でも、きっかけがひとつ、ふたつと増えるにつれて、どんどんクラスに馴染むこともできたし、友達もできた。それであとは、花壇の子と関わりが持てたらいいのにな、って思ってたんだ」


弘海先輩も私も帰宅部だったから、あの広い学校で接点を持つ可能性は極めて低かった。
特に高校生と中学生ともなると、確率はほぼ無いに等しかった。


「そしたらあの水場にやって来たから、これは奇跡だなって思ったよ」

「でも、水かけてきたのはどうかと思いましたよ?」


私はあの時、出会ってすぐ弘海先輩のことはヤバイ奴認定をした。
あの学校にはプールがなかったから水浴びをしようと思ったら、そういう手段しかなかったというのはわかるけれど、いくら暑いからといって、水を頭からかぶるなんて正気の沙汰じゃないと思った。


「時々すれ違うときに、よく友達とキャーキャー言ってるの見たから、乗ってくれるかなって」


ちょっと頭おかしいひとかな、とは一瞬過ったけれど、それよりも暑かったのと、楽しそうだったのと、弘海先輩が私好みのイケメンさんだったことが、おそらく要因だった。
それに、一時の夢だと思ったら何も思わずやり返していた。
その関わりは、その時だけだけのものだって思ってたから。


「弘海先輩って結構ぶっ飛んでますよね」

「一番初めに仲良くなったのは、積もった雪にシロップかけてかき氷、って遊んでたら、『それめっちゃうまそうだから俺にも分けて』って言ってきた奴だよ」


類は友を呼ぶとはこのことだ。
以来その人とはサシで飲みにいくほど、今も交流が続いて居るらしいという、非常にどうでもいいエピソードも教えてくれた。


「あの時も水頭っからかぶってたし。私相当ヤバイ人かと思いましたもん」

「あの日はすごく暑かったから。でも杏那も結構ノリノリで水浸しなってたじゃん」


言い返せない。確かにあれは涼しかったし、楽しかった。
近所のお兄ちゃんと遊ぶようなそんな感覚だった。
弘海先輩は「あの時は暑さにやられてどうかしてたんだよ」ともっともらしいように言い訳した。