付箋をとって、お菓子のカゴとマグカップをお盆に乗せる。
持って部屋に戻ろうとすると、弘海先輩が隣に立っていたのに気づかず、危うく声を上げそうになった。かろうじて口をOの字に開くだけに止めることができたが、弘海先輩は私の顔に声もなく吹き出すと、お腹を抱えた。

胸に手を当て、驚いた心臓を落ち着ける私の前で、ひーひーと声にならない笑いをあげる弘海先輩は失礼極まりない。
少し腹が立って弁慶の泣き所を蹴ってやると、弘海先輩はまた別の声にならない唸り声をあげた。
気にせず先に部屋に戻る。
全くなんだ、こっちは心底驚いたと言うのに。
お盆を持ち上げていたら確実にひっくり返すところだった。

ローテーブルにお盆を置いたところで、向こう脛をさすりながら弘海先輩が戻って来た。


「ごめん、悪かった」


ドアを閉めて、向かいに座った弘海先輩を睨みつけながらコーヒーのマグカップを差し出す。


「危ないです。零したらどうするんですか」

「手伝おうかと思って。逆効果だったね、ごめん」


ありがとう、と弘海先輩は受け取ると、暖をとるようにマグカップを両手で包んだ。
足を崩してもいいのに、弘海先輩は正座していて、なんとなく落ち着かない様子だ。
指先でトントンとマグカップの表面を叩いている。


「緊張、してます?」


私も男の人なんか実家に通したことがないから、人のこと言えないが、雰囲気を和ませるつもりで声をかけると、弘海先輩は大真面目な顔をした。


「そりゃあ、女の子の部屋だし」

「高校生みたいですね」

「好きな人の、部屋だから。尚更だよ」