蔦田先生が、ここにいる全員を代表して香月先生に尋ねた。
全員の視線を受ける香月先生は首を傾げて、空になったグラスをテーブルに置いた。


「会えましたよ。え? 葛西? 何勿体ぶってんだ、早く入れ」


再び視線は出入り口に移り、香月先生に呼ばれて襖から姿を現したのは。

ブルゾンジャケットを着て、マフラーを巻いたそのひと。
女の子が羨むような二重、栗色の髪、通った鼻筋、キュッと結ばれた形のいい唇、そして私と同じ位置にある黒子。


弘海先輩だ。
間違いなく私の知っている、葛西弘海先輩。
最後に会った時よりも随分と雰囲気が大人びて、当時の青年らしさは見当たらず、落ち着いた成人男性の姿がそこにはあった。

一瞬だけ視線がかち合った。
もしかして私に気づいた? と淡い期待は、逸らされたことによりすぐさま消え去る。
弘海先輩は恐縮したように頭をへこりと下げて、私など見向きもしなかった。

何かに心臓を掴まれたように、きゅうっと胸が苦しくなり、私も視線を落とした。