山口先生が店員さんを呼んで注文をする。
私は基本的に先生たちにお任せして、お酒はお母さんの血を受け継いであまり飲めないので、ひとりジュースを頼んだ。

個室で仕切られているのもあってか、外の声はほとんど聞こえない。
相変わらずジャズ音楽が部屋に流れて、先生たちの会話もポツリポツリ。
そういえばテストの点数が。
うちのクラスの国上が。
この冬のご予定は。
誰かがひとつ話して、誰かがひとつ答えて、話が終わる。
そんなことを繰り返していたら、飲み物が運ばれてきたが、まだ香月先生たちは見えない。


「遅いですね、ふたり」

ビールジョッキを持つ、佐藤先生。

「もう少しじゃないですか?」

梅酒を手に取る、花房先生。

「さっき、すぐそばまで来てるとメッセージきましたね」

スマートフォンを右手に、出入り口を伺う植田先生。


すると、扉の向こうから従業員のいらっしゃいませ、と言う声が聞こえた。
足音はこちらに近づいてきて、すっと襖が開くと香月先生が顔を見せた。


「遅くなってすみません」

「先に頼みましたが、香月先生は最初ビールで良かったですか?」

「お気遣いもすみません、ありがとうございます」


香月先生は靴を脱いで上がると、コートとマフラーをハンガーにかけ、奥の方に腰を下ろした。
私の目の前は、まだ空席。とくとくとはやる心臓の音。
先生方も、着席した香月先生と出入り口を見比べている。


「それで、葛西には会えましたか?」