花純先生に連れられて、やってきたのは小洒落た居酒屋さん。チェーン店ではなく個人営業のようで、同じ国語科の栗田先生のお知り合いのお店なんだそう。店内はカウンター席とテーブル席があり、全て満席。落とされた照明と、流れるジャス音楽はいわゆる居酒屋とはお質な雰囲気を漂わせているが、壁にぶら下がっている品書きは「枝豆」「唐揚げ」「フライドポテト」と大衆的なもの。
私たちは奥の掘りごたつ席の個室に通された。

襖が開くと、年配の先生方はすでに着席して、メニューを眺めていた。私たちに気づくと「来ましたね」と空席を示してくれた。


「先生たちお早いですね」

「紳士は早行動が基本ですからね」


一番年配の山口先生が、私たちにメニューを差し出しながら答える。

お礼を言いながら私は中央に、花純先生その隣に腰を下ろす。
国語科教諭は中高合わせて全十二名。国語科の飲み会は集まりが良くて、今日も漏れることなく全員参加。
でも、まだ香月先生の姿が見えない。


「あれ、香月先生は?」


花純先生が私の代わりに聞いてくれた。
ああ、と答えたのは栗林先生。


「今、葛西迎えに行ってますよ」


その名前が出て、どきんと胸が跳ねる。


「相変わらず遅刻魔なところは変わらずに、さっき電話したらまだ自分のところの駅だって言うので」

「様子も見にってことですか?」

「ふらふらして倒れられても困りますからね」


先生たちはメニューを見ながら会話を続ける。
私情により、大事をとって休職という話は聞いていたけれど詳細は知らない。余程ひどい怪我か、あるいは病気だったのか、先生方の言葉からは気遣いがうかがえた。


「とりあえず、頼んでおきましょうか」