結局約束したその日に、事故とはいえ、私は約束をすっぽかしたので以降、弘海先輩に会うことはなかった。
もしかしたら、と翌日、駅近くのコンビニ前で待ってみた。
その翌日も、学校帰りにも待ってみたけれど、弘海先輩が来ることはなかった。
実家の場所はおろか、電話番号さえ知らなかったので連絡することもできず、あの時拾った腕時計をいつもポケットに入れて、そうして月日が流れていった。


例えばあの時、私が助かったのは本当に突風のおかげかもしれない。
落ちていた腕時計は、本当は誰かだ落としただけで、私が勝手に拾ってしまったものかもしれない。
弘海先輩は送別会の後、コンビニで私を待っていてくれたに違いないが、心変わりしたと結論づけていなくなってしまったのかもしれない。


色々な可能性を考えて、もう会えない理由を自分の中でつけた。


弘海先輩のその後の進路は掴めなかった。掴まなかったといった方が正しい。
知ったところで、合わせる顔もなかったから、私から探そうとは思わなかった。
弘海先輩みたいに小細工するのではなくて、自然の流れに身を委ねてみようと思った。


斯くして、巡り合った、機会。
嬉しい、よりも、複雑だった。
これから会う人が、もし本当にあの日以来会うことのなかった弘海先輩だったらどうしよう。
なんて顔をして、挨拶すれば良いのだろう。
どんな言葉をかければいいのだろう。
それとも裏切った私を、弘海先輩はあの苦い顔で拒絶するだろうか。