「でもほら、葛西先生も帰ってくるでしょ」

「カサイなんかよりもあんちゃん先生がいいよ。授業はまあ、わかりやすいけど、何考えてるかわかんないもん」

「えー、でも葛西先生イケメンじゃん? 目の保養!」

「あんちゃん先生もそんなこと言うの?」

「私面食いだからー」

「正直ー。でもそんなとこも好きー。じゃあ四月からここで働こうよ」

「国語科の著しい女子不足。花純先生だけだし」

「あははっ、まあね。言葉は嬉しいよ、ありがとう」


ええー、とブーたれる生徒に曖昧な返事をして笑ってごまかす。
ちらりと時計を見るともう一時半だ。スクールバスの出発時刻まであと五分。
「ほら、もう行かないとバスに逃げられちゃうよ」と生徒たちをゼミ室から追い出して「また月曜日ね」と見送る。思いの外の長居に驚いた様子の三人は、ゼンマイ仕掛けの人形みたいにぴょんと飛び上がり「やっばい!」「じゃあ、先生また月曜日!」とバタバタ走って帰って行った。
今日だけ廊下を走るのを見逃してやろう、出ないと間に合わないから。


「葛西先生、か」


一人のゼミ室で、その名前を口にする。