自嘲の笑みを浮かべる弘海先輩の言葉は、やっぱり矛盾が多い。
自分は知ってるみたいな言い方をして私と距離を縮めようともするし、置こうともする。

どうしてほしいのかよく分からない。
どうしたらいいのか分からない。
それなら、私はここで引くべきだろうか。
未来はどうなってしまうか分からないから、やっぱりやめておきましょうって?
連絡先を交換しても、疎遠になればそのうち消してしまうだろうって?
私は弘海先輩のことなど忘れてしまうから、一度でも関わったことのある痕跡を残さないでいようって?

あれだけ自信たっぷりに「信じて」なんて言っておいて、そっちがそんなこと言うの?



「でも心変わりも否定するつもりはないよ。変わったっていい。変わっていいんだ。それは仕方ないことで、大切なことかもしれない。だから別に無理する必要ないよ」



私の携帯には美紀のアドレスはまだ入っている。
メールのやり取りも電話の履歴も、アプリでのやり取りも残っているけれど、どれも起動せずに二年近くが経とうとしている。

とっくに向こうは消してしまったかもしれない。
でも私はまだ消せなかった。
それは自分を戒めるためでもあったけれど、確かに美紀は私にとって親しい存在だったから。

美紀たちといて、自然に笑えている自分は確かに存在していた。
例え表面上の関係だったと思っていても、大切だと思っていた。
大好きだった。
でもそれを口にしてしまえば、壊れる呪いをかけてしまうようで、ずっと言えなかった。

私にとって「特別」を作るのは、そう言うことだった。