火曜日も、水曜日も国語ゼミを訪ねた。
おにぎりをかじりながら、弘海先輩のオチのない話や、花純先生のお料理うんちくを聞きながら、お昼休みを過ごした。

木曜日も、行った。
そして弘海先輩の登校最後の日である、今日、金曜日にもお邪魔した。
「三日も飼えば情が移るって言うけど、3週間もいれば本当にそうね」とコンソメスープをすする花純先生と、「高橋先生の罵声をもう浴びなくて済むのかと思うと、気が楽ですけどね」と春巻きを頬張る弘海先輩のやりとりを、野菜ジュースを飲みながら眺めていた。


それから花純先生は事務に用事があるから、と途中退席して、二人っきりになったゼミ室。
黙々と弁当を平らげて、一息ついて、話しかけたのは、私。


「今日、放課後送別会やるんですよね?」

「そうなんだよ。誰から聞いた?」

「きいちゃんです」

「あ、なるほど」



弘海先輩はバッグの中からガムのボトルを取り出すと、私にも一粒くれた。
鮮やかな黄色い人工甘味料、一粒は弘海先輩の口の中に放り込まれて、もう一粒は私の手のひらに。噛み始めたら気が散ってしまうから、それをお守りがわりに握りしめて、意を決した。

今日は必ず言うのだと、月曜日から決めていた。


「それで、帰宅予定は何時ですか?」

「みんなが買ってきたおやつ広げて食べるだけの会だから、一時間もかからないとは思うけど、そのあと色々先生方にも挨拶するから、まあまあ遅いと思うよ。どうして?」

「約束、果たそうと思って」

「約束?」

「三年前の、約束です」


弘海先輩は口を動かすのをやめて、目を丸くした。


「いいの?」


そして、確認するように聞いてきた。