弘海先輩が編んでくれている間、私はその手を眺めていた。
胸元まである私の髪は、弘海先輩によって綺麗にきっちり編まれていった。
ネコの髪ゴムで留めた後は、毛束全体を少しほぐしてルーズ感の演出までバッチリ。私よりも高い女子力に脱帽。感嘆が漏れた。


「……ん、はい。これでネコちゃんも見れる」


俯くと、こちらを向いたフェルトのネコと目があった。
今朝も思ったけど、やっぱり可愛らしい顔。


「かわいい。ありがとうござい……」


お礼を言おうと顔を上げると、思ったよりもすぐそばに弘海先輩の顔があって。
頭を顎にぶつけなくてよかった。
そのことを思うよりも、顔の近さに心臓は早鐘を打った。
髪の毛よりも少し暗い色の虹彩に私が映っているのが見えて、目が反らせない。


「先、生……?」


ゆっくり、近づいてくるから。
少し前に倒れれば、唇が触れてしまいそう、なんて。
心臓が壊れそうなくらい胸を打った。

けれどそこでタイミングよく、ギィっと扉が開いて花純先生が帰ってきたから、それ以上距離は縮まることなく、


「あ、お揃いだ」

「え?」

「ここ、鼻のほくろ」


とんとん、と自分の鼻梁を指差して、弘海先輩は何事もなかったように「おかえりなさい」と花純先生に声をかけ、自分の席についた。
私はなかなか顔があげられず、「先に食べてていいって言ったのに」という花純先生に愛想笑うを向けることしかできなかった。
弘海先輩は素知らぬ顔で箸を割って、売店のB定食を食べていた。
私は自分の気持ちに動揺していた。