割り切ることも大切。
でもそれは、決して諦めること同じ意味ではないのだと、気づいた。
自分が諦めたら、他の人の私に向けてくれている気持ちも、見失ってしまうかもしれないから。

学校の中で上手くいかなくても、お父さんが私のことをいらないと言っても、もう少し時間が経てば、卒業すれば、社会に出れば、違う出会いが待っているかもしれない。
全てを許すことができなくても、一緒に笑いあって悩み合える人はいるかもしれない。

未来に期待するのは、悪いことではないかもしれない。

この数日間で、そんな風に思った。

ふっと空気が揺れて、弘海先輩が笑ったのが分かった。


「杏那、この三日間どうだった?」


見上げた弘海先輩の二重は、優しく弧を描いていた。


「……三日間?」

「僕とまともに話してから三日間。今週だけ時間をくれって言ったじゃん。その三日間、僕は杏那にとっていらない存在だった?」


強く聞こえた「いらない存在」という言葉。
私はあの時、他人も自分もいらないと言った。
でもこの三日間、弘海先輩をいらないなどとは一度も思ったことがなかった。

寧ろ視線が合わないのに、こっちを向いて欲しいとさえ思っていたように思う。
否定を込めて、首を振る。
すると弘海先輩は「決めた」と呟いて、ひとつ大きく深呼吸をした。