私たちの間には二人分くらい距離があって、そのちょうど真ん中に大きめの岩が迫り出し、流れを二分していた。けれどその流れも弘海先輩の前でまた1つになっている。
視界の端で、弘海先輩が手を組むのが見えた。


「あの時止められて、整理してたはずの感情が一気にぐちゃぐちゃになりました。何が起こったのか初めは分からなくて、直ぐに全部台無しにされたのが分かって、それから私の心は空っぽです」


早く楽になりたかったのに、突然道を閉ざされて感情は彷徨った。
最善だと思っていたのに邪魔が入って、混乱した。
どうしてあの場所に弘海先輩がいたのか、理解し難かった。
そんな秘密を共有している事実も、毎日恐怖だった。

構わないで。
放っておいて。
目の前から、消えて。
その存在すら忘れていたのに、今更現れないで。


「でも、あの時全部諦めて、蓋をして、『そんなもの』って決めつけたものが、実はそうではないんじゃないかって、思うようにはなりました」


いきていると、楽しいとか嬉しいことより、辛くて気を揉むことの方が断然多い。

少しでも反応がなければ、落ち込んで、私はこの世にちゃんと存在してるのかわからなくなる。自己嫌悪に陥って、何がいけなかったのか不安になる。
気心が知れていると思っていても相手はそうではないかもしれない。
建前だけの関係で、親しいなど、自分だけが自惚れているだけかもしれない。


傷つくのは嫌だ。
傷つきたくない。
何もかもうまく生きたい。
でもその能力はない。
全部手探り。

みんな自分だけの仮面を持っていて、それありきでしか接することができない。