「正直、忘れてました」

「僕はその約束果たしてもらおうと、この高校に来たのに」

「またまた」

「信じてないな」

「あまりに動機が不純で、信じろと言われる方が無理ですよ。仮に私がいるからにしても、それは成り行きに任せなきゃ」

「でも、いろんな可能性はあったでしょ。もしかしたら僕がこの高校に受け入れてもらえなかったかもしれない、とか。杏那が別のところに転校してるかもしれない、とか」

「もしかしたら、私が死んでいたかもしれない、とか?」


半分冗談で返すと、弘海先輩は口を噤んだ。
サラサラと葉の擦れる音か、水の流れる音かわからない音色が耳を抜けていく。

地雷だったかな。
でも誰の?
この場合は私なのに、どうして弘海先輩は苦しそうな顔をするのだろう。

最悪な再会だった。だって私はあの時死のうとしてた。
一歩遅ければ確実に線路に飛び出していたし、今こうして立っていることも、呼吸することもなかった。


そう考えると、弘海先輩と私は不思議な縁で結ばれているのかもしれない。



「……あの」

「うん」


呼びかけると、弘海先輩はすんなり私を振り向いた。
その目が潤んでいたのは気のせいだろうか。
切なげに私を見つめる先輩に、言葉を一瞬失いかけた。


「私、まだ分かんないです」


その視線から逃れるように、ふいと川の方に落とす。