——バンッ!



ピストルの音と同時に、本部席前のトラックに並んでいた先生方が一斉にインフィールド中央に設置してある箱をめがけて走り出した。
わー! とか、きゃー! とか、聞こえるのは生徒の歓声ばかり。
前の生徒が興奮で飛び跳ねたりするから、様子が一切伺えない。

先生方が続々とお題を開封して「赤いパンツ履いてる人ー!」「親指から小指までが20センチの人ー!」と叫ぶ声が聞こえる。
お題が叫ばれるごとに「絶対見せないー!」「そんなの知るかよー!」と爆笑の渦が沸き起こる。

今年のお題も相当キてるな。
みんなどっから声出してるんだろう。
もみくちゃにされて、歓声から様子を伺っていたら、腕を引っ張られた。きいちゃんだ。


「杏那先輩」

「どうした?」

「私、大手柄かもしれません」

「は?」


あれ、ときいちゃんが指差す先には、弘海先輩。
どういうわけかこちらに向かって走って来る。
コースに乗り出さんばかりの勢いだった生徒たちは、モーセのなんとやらのように弘海先輩が近づくにつれて道を開ける。その道がどこに終着するのかと思えば、あろうことか私の前だった。
驚きで声も出ない私ときいちゃんは、あんぐりと口を開けて弘海先輩を見上げる。


「一緒に来て」


手が差し伸べられて、私はその手と先輩を交互に見つめる。
何が起こったか理解ができずにいると、私の腕を掴んでいたはずのきいちゃんが突然解放し、弘海先輩に押し付けるものだから、私はさらに驚いて目を見開いた。