「え?」


弘海先輩の言葉に被さるように、予鈴が鳴って、ハッとする。
スピーカーの方を見上げると、壁にかかる時計が目に入って、それは一時半を指していた。
五時間目が始まるまであと十分。

もう一度弘海先輩を確認するが、カバンの中を漁って、もう私のことなど見ていなかった。


「八城さん五限何?」

「えと、数学です」

「移動じゃん。じゃあ、そろそろ行ったほうがいいね。遅刻しちゃう」

「そう、ですね」


数学は能力かつ志望別にクラスが振り分けられる。
上のクラスから順に使う教室はA組、B組、C組、D組、多目的室なのだが、私は就職でも数学はよくできる方なので上から二番目のクラス。教室は自分のホームルーム教室だから移動はほとんど必要ない。
そんなことはもちろん言わないけど。


ところで、今投げてきた質問は、なんだったのだろう。
気にする様子のない弘海先輩に、心がさわさわと波を立てる。
本当に全く気にする様子もなく机の上に教材を並べ始める。六時間目が授業らしい。

私は立ち上がって、パイプ椅子を片付ける。
それじゃあ、失礼しました。背を向けてゼミ室を出ようとしたが、


「明日は一緒に食べれないのが残念だね」


弘海先輩の声に呼び止められ、ドアノブに手をかけたところで振り返った。
一緒に食べるってほどの量を、私はいつも持ってこないけどな、と心の中で答える。
ちなみに今日の私の昼食は、家の近くの早朝から営業してるパン屋さんのコロッケパンだった。

五時限目に授業のない弘海先輩は、机に身体を預けて私を見上げた。