その後、僕の状態が落ち着いた時、僕は集中治療室から大部屋に移された。


 一部屋にベッドが四つあるが、それぞれのベッドの空間が程よくあり、カーテンで仕切れば周りも気にならない。


 窓側をぶんどる事ができて、外が見られて開放感もあり、入院生活もそんなに悪くなかった。

 生きてるだけで、満足だった。


 意識が戻っても、僕はほとんど寝て過ごしていたと思う。

 薬のせいか、安心からか、とても眠たかった。


 母がつきっきりで僕を看病し、父も仕事が終われば、顔を出してくれた。
 
 二人が一安心しているそばで、僕はまだ大切な事を訊けなくて、すっきりしないでいた。

 それを失っていたらと思うと怖くて、中々口に出せなかった。


 両親もそれについては何も言ってこないから、僕の希望通りに事が行かなかったように思えてならない。

 でも僕は覚悟を決めて、食後のリンゴをむいていた母に話しかけた。


 夕暮れの優しい光が空を覆って、雲がピンクや紫のパステルカラーに染まっていた時だった。


「あのさ」


 僕が不安な目をむけて話しかけると、母は手を止めて、無言で僕と向き合った。

 僕はゆっくりと口を動かした。


「あの時の、子猫はどうなったの?」


 母は言いにくそうに、僕から視線を外した。


 僕はあの時、無茶をして車に飛び込んだけど、それには理由があった。

 クラスからのけ者にされて、白い目を向けられ毎日が針のむしろだった事もあり、やけくそになってちょっとした衝動で危ない事をやってしまう不安定な心情だった。


 あの時、子猫が道路に紛れ込んでいて、僕は危険を顧みずそれを助けようとした。

 激しく行き交う車に、先のことも考えず、身を投げ出してしまった。

 自分がどうなってもいいという、投げやりにも似た無謀な行動。


 いつ轢かれてもおかしくない場所で、小さな体を震わして、ミーミー鳴いて救いを求めてる声をキャッチしたとたん、どうしても放っておけなくて、僕は無我夢中で子猫の元に駆け付けた。


 あれは自殺ではなかった。