あのとき、幸せそうに食卓を囲んでいた葉羽のお腹にいる子は僕なんだ。

 二人が困難を乗り越えて、命を紡いで愛されてできた子だ。


 あんなものを見せられたら、簡単に命なんて落として言い訳がない。

 あの二人の子供は、反抗するような悪い子供であってはいけないんだ。


 それに、僕は、自殺をしようと思ったわけじゃない。

 ただ、やけくそで危険を顧みず衝動的に行動してしまっただけだ。


 だから、だから、もう一度、僕にチャンスを与えてほしい。


 僕だって諦めない。

 まだ生にしがみついていたい。


 こんな事になったから、命がどれほどはかなくて大切なのかよくわかる。

 何も残らないまま、無駄にはできない。

 生きてるからこそ、意味があるそれまでの歩み。

 自分の分以上に、僕が生まれる前からの両親の繋がり。

 大切な大切な絆の糸が、僕にも紡がれている。

 もう一度やり直してみたい。


 今こそ、自分で必死にもがくときだった。

 暗い海の底から浮かび上がろうと、僕は上へ上へと力の限り泳ぐ。

 体は疲れ切って、息も苦しいけど、やめない限りきっとそこへ近づいているはずだ。
 
 僕は、大人になった悠斗と葉羽、即ち、僕の両親に伝えなければならない言葉がある。

 それを言うまでは死んでなるものか。


 どれくらい、絶望の海を彷徨っていたのだろう、やっとやっと目指しているキラキラと光る海面が見えてきた。


 あともう少し。


 僕の頭が海面から出ると、この先の未来を照らす眩しい光を放つ太陽と、どこまでも爽やかに青く染まる無限の希望の空が僕の前に現れた。


 あまりにもそれは大きく茫洋な世界に見えた。

 何度でもやり直せそうにそこには制限などなかった。


 それに気が付いた時、僕は全身から伝わる痛みを感じ、呻いた。