子供達が帰ったあと、静かになった教室の窓の戸締りをチェックして、俺は再びサボテンの鉢植えを抱えた。

 中学生の葉羽の面影を思い出し、あの頃を懐かしく、そして大切に思う。


「これでよかったのかな」

 中学の頃の葉羽と再会した一瞬の出来事に、もの悲しくて、俺は暫く感傷に浸っていた。

 大人になっても、あの少年だった時の気持ちはそのままに、涙が出る程あの時の葉羽の姿に胸が締め付けられた。

 あんなにも小さく、消えゆきそうに繊細だったのだろうか。

 年を重ねてから見た葉羽は、まさに妖精のように儚く、透き通って見えた。

 無垢過ぎて、今の俺には触れるのも恐れ多いものだった。

 それなのに、俺は自分が大人だと言う事も忘れて、葉羽にキスをしてしまった。

 俺がおっさんであっても、あの時だけは葉羽と同じ年の悠斗だと自分自身、信じてやまなかった。

 どんなに年をとっても、中身はいつも少年の時の気持ちが存在している。

 言い訳がましいけど、それが俺に与えられたチャンスとして、その奇跡を存分に味わった。


 あの時代の俺がもっと素直な中学生でいたら、葉羽を苦しめる事などなかったのに、また胸が締め付けられてしまう。


 色々な事を思い出す。

 今となっては懐かしくて、甘酸っぱく、時には苦みを感じて、恥ずかしく、胸がきゅんとしてくる。

 葉羽とのキスの後では、余韻がいつまでも残り、俺は幸せな気持ちにふわふわとしていた。


 葉羽の事ばかり考えていると、そわそわと落ち着かなかったが、俺は残っていた仕事を片付けて、やっとの思いで家路についた。


 時計を見ればまだ夕方くらいなのに、外はすっかり日が暮れ、暗かった。

 駐車場に停めてあった車に乗り込み、助手席の足元にサボテンを置いた。

 そして安全運転を試みて家に帰っていく。

 家といってもまだアパート暮らしだが、いつかは大きな家に住んで、花咲家のような温かい家庭を作るのが夢だった。

 やはり花咲家は俺の理想だった。