「悠斗君ってどうしてなんでも一人で抱え込んで機嫌が悪くなるの? もっと気楽になろうよ。人生は楽しいよ」


 指をパチンと鳴らすようにこすり合わせると、手からバラの花が出てくる練習を葉羽の部屋でしているときだった。

 俺はその時確かに浮かない顔をしていたと思う。

 いつもの俺の悪い癖でもあるのだが、葉羽もいつもの癖で構ってくれてただけだった。


「ほうら、人生はバラ色にならなくっちゃ」


 たまたま葉羽の調子がよく、その手品は手に仕掛けていたトリックが上手く作用して、次々と造花の赤い薔薇が現れた。

 葉羽は調子に乗って、俺の目の前に薔薇を落としていく。


 目に飛び込む赤色が急に癪に障ったと同時に、俺は自分の人生がクソ色にしか感じられず、それに反発してしまった。


「いちいち、どうしてお説教みたいに指図すんだよ」

「だって、私は師匠だもん。弟子に指図して何が悪いの?」


「いちいち煩いんだよ!」

「悠斗君、どうしたの?」


 葉羽はうろたえ、震えていた。


 吐き捨てるように言った俺の言葉が蛇のような鎖となる。

 葉羽はそれに巻き付かれたように動きを封じられて、立ち竦んでいた。

 じっと俺を見つめる瞳が、やがて潤って揺れている。


 どんな慰めも、アドバイスもこの時の俺には聞く耳持たずだと思って、ただ口を閉ざして、泣きそうになるのを耐えていた。

 沈黙がずしりと俺たちに圧し掛かり、益々重苦しくなってくる。

 俺はそれに耐えきれず、愚痴をこぼした。