そして何より、権力を持つもの、暴力を振るうものが正義となり跋扈する世の中がつくづく嫌になって、折角普通に戻りかけていた俺の心はまた暗く卑屈に逆戻っていった。


 俺ばかりどうしてこんなに不幸にならなければならないんだろう。

 一体俺が何をしたというのだろう。


 伯母は落胆する俺を慰めようと、いつもにも増して料理の腕を振るってくれるが、それが却って重荷となった。

 伯母の前ではお世話になってるだけに、自分のいい面を見せなければならない苦しさ。


 本当は全てを投げ出して、発狂したいのに、どこまでも自分を押さえこまないといけない葛藤。

 俺はただ塞ぎこむことで、自分を殺していた。

 誰にも自分の心境を話せず、また心の中に抱え込んでいつも薄黒い煙を纏っている気分だった。


 そんな時でも葉羽は屈託のない笑顔で俺に接しては、まだ手品を教え込もうとする。


 喧嘩した傷口の事を聞かれたが、転んだと答えただけで詳しい事を何も言ってないから、俺の中で何が起こっているかなんて葉羽にはわからなかった。

 それを分かっていても、俺はあの時葉羽が言った言葉に切れてしまって、そこで初めて大喧嘩してしまった。


 それが取り返しのつかないことになるなんて──。


 もっと早く葉羽の悩みに気がついていたら、俺はあそこまで葉羽を傷つけることはなかったと思うと、それが悔やまれて仕方がなかった。

 本当に俺は自分の事しか考えられない、大馬鹿だった。