その直後、一度グーをしてくるっとひっくり返して手の甲を見せ、そしてまた指を開いたとき、そこには赤い玉が指の間に挟まっていた。

 俺は意表をつかれて、暫し固まって葉羽の手を見つめていた。


「どう? うまくなったでしょ」


 だが、なんかバランス悪く、指の間に挟まってないところもあり、すかすかな玉の現れ方だった。

 よく見ればいくつか足元に玉が落ちていた。

 それを隠そうと葉羽は足で寄せ集めていたが、もぞもぞしていたので自然と俺の視線は足元にいった。


「何個か落ちてるぞ」

「あっ、ばれた?」


 やはり葉羽の手品はどこか抜けている。

 師匠があの調子だったからまともに教え込まれてなかったのかもしれないが、それでも以前よりは少しは上達したみたいだった。


「だけど、どうして急に手品を俺に見せるんだよ」

「だって約束してたじゃない」


「でも、あれから葉羽は俺を避けてたじゃないか」

「避けてたわけじゃない。私だって色々とあったの。悠斗君だって、ここへ戻ってきたときちょっと気難しかったじゃない」


「そうなんだけど、俺も色々あったから」


 俺たちは心の内を全て話せないもじもじした様子で、上手く伝えられないことを恥じるように見つめていた。

 いつまでもこうしていられないと、それを吹っ切って葉羽はスカッと水に流したように笑い出す。


「もういいじゃない。それより手品しよう」


 葉羽は部屋の隅に置いてあった手品の道具が一杯入った箱を引っ張り出しては、一つ一つそれを俺に見せた。

 いくつかはサボテン爺さんから譲り受けたものもあるらしく、道具を見せながら思い出話も出てきた。