僕と言う個体が、薄れていく中で流れる映像は、訳がわからなかった。
 誰かが変な格好して、くねくねと体を動かして唄っていた。

 聴いた事があるメロディだ。




 チャラララララ~♪
 チャラララララ~ラ~♪
 



 手品のBGMで良く使われる『オリーブの首飾り』だった。
 それはこの状況にとても怪しげで、僕を益々惑わした。


「手品ってもんはね、ハートで伝えるんだよ。失敗したってなんのその。焦っちゃいけねぇ。自分で思いっきり楽しんでやんなくっちゃ。要は気合だ。その意気込みが手品の心意気」


 金ピカの派手な衣装を身に着けた爺さんが道具らしき箱を持って、そこから花を取り出した。
 

「よっ、ほっ、それ~、あー手品は楽しいぞ。そら、お前らもやってみろ。手品は魔法だ。そらよっと。ほうら、手品で奇跡を起こして見せよう。そしてみんなが幸せに。そしたら自分も幸せに。失敗したってもう一度。何度でもやればいいのさ。そしていつかきっと上手くいくものさ」


 手品をしている爺さんの観客は、全部『サボテン』だった。

 サボテン?


 丸いサボテン、平たいサボテン、長い柱のサボテン、枝分かれしたサボテン、肉厚の葉が重なり合ったサボテン、ありとあらゆるサボテンが大人しくじっとそこに佇んで、爺さんの手品を見ていた。


 その中で一つ、ところどころ茶色くなって枯れかけた丸い形のサボテンが、食い入るように一番その手品を見ているように思えた。

 そのサボテンには見覚えがあるような気がする。


 だけどなんでサボテンなんだろう。


 これも最後に見る奇妙な走馬灯の一種なのかもしれない。

 あっ、なんか思い出した。
 確かに、あのサボテンを見た事あった。

 どこで見たんだろう。


 こんな映像を見て、考えを巡らせられることは、死ぬまでまだ時間があるらしい。

 僕はしっかりとその光景を見ていた。

 そのうち場面が変わり、僕に似たような奴が見えてきた。


 ここから僕の真の物語が始まるのかもしれない──