夏休みに入る頃、葉羽の家族全員を乗せた車が、家の前に止まったのを見かけた。

 葉羽が車から降りてきたときは、またぎこちない態度になったが、兜が「おっす」と明るく挨拶したことで俺の負担が少し軽減されて気が楽になった。


 さらに葉羽の母親も父親も一緒にいたので、俺は幾分か生意気な態度を取る事が抑えられ、猫を借りてきたように礼儀正しく頭を下げて挨拶をした。


 葉羽の両親は揃いも揃って優しげで上流階級な気品が出ていて、俺も失礼なことはできないと緊張してしまう。


 気軽に話しかけてきたので、他愛もない受け答えをし、この日、伯父が出張で、伯母の帰りも遅くなることまでベラベラと話してしまった。

 伯母は趣味の集まりで時々出かけていく。

 花咲家もその話は聞いていたのですんなりと理解すると、大らかな気前よさでその日、俺は、花咲家から夕食の招待を受けてしまった。


 冷蔵庫には食べるものは沢山あり、一人でも適当に食べられるからと断ったにも係わらず、それが遠慮と思われてしつこく誘われた。

 兜も側で喜んで何度と「おいで」と言ってくる。

 葉羽はその時どのように思っていたのだろうか。


 ちらりと葉羽を見れば、素直に笑ってるその姿に俺は気が緩んでしまい、結局はそれが一番の理由になったと思うが、夕食の誘いを受けることにした。


 一旦家で服を着替え、花咲家に行くと兜が元気に迎えてくれた。

 家の中へ入ると、小学生の時に遊びに来た感覚が思い出された。

 懐かしく、そしてあの時の自分はまだまともだったと、過ぎ去った時の流れが恨めしく思えてきた。

 ここの街で暮らせていたら、俺は今よりはまだましな性格になっていたことだろう。

 やはり、住む世界が違うこの嫉妬にも似た悔しさが、どこかで沸々としていた。


 それは決して葉羽のせいではないのに、葉羽と対等になれない自分の悔しさが劣等感を強く引き出していた。


 葉羽は透き通った光につつまれるように、ただ自分の手の届かない場所にいるように思えてならなかった。