葉羽と会えたのは、梅雨が明けた本格的な夏が始まる頃だった。

 俺が学校から帰ってくると、白いセダンが葉羽の家の前で止まって、ちょうど葉羽が車から降りてくるところだった。

 母親が運転する車は車庫に入らずに、まだ用事があると葉羽を置いて去ってしまった。


 葉羽は学校へ母親の車の送り迎えで通っているらしい。

 なんと優雅な待遇だろう。

 自分とは違う境遇に、少し嫉妬のようなムカつきが現れた。


「悠斗君?」


 葉羽は驚いた顔を俺に向けながら、じっと見つめていた。

 まだまだ子供っぽい面影を残しながらも、小学生の頃と違い葉羽は女の子らしく成長していた。

 髪は肩までかかるセミロング、すらっとした手足、透き通るように白い肌、そして私立の中学のセーラー服がとても似合っていて清楚なお嬢様そのものだった。


 ただ、肌の色が白すぎて青白くなっているのは病人みたいだった。

 貧血を起こしたのが原因だろう。

 この前まで入院してたくらいだ。
 
 まだ体の調子もすぐれてないのかもしれない。

 そのせいで儚げさが漂って、益々葉羽が妖精のようにみえてしまった。


 妖精──。


 懐かしい響きがした。

 サボテン爺さんも葉羽をそう呼んでいた。


「久し振り……」


 とりあえず愛想もなく、ありきたりの言葉を俺は返していた。


 この時久し振りに会えた嬉しさをもっと素直に出せばいいものを、ほんの少し口元を上げるだけでよかったのに、俺は目を節目がちによそよそしい態度を取ってしまった。