「お姉ちゃん、今入院してるの」

「えっ? どこが悪いんだ?」


「うーんとね、貧血」

「えっ? 貧血? それって病気なのか?」


「でも貧血って血の病気でしょ?」

「まあ、鉄分が異常に欠けた状態なら、深刻なんだろうけど」


「多分それだと思う。お姉ちゃん結構我慢したり、耐えるところがあるから、時々熱がでて眩暈がしても言わなかったみたい。だから『Mです』ってお医者さんに言われて、心配されてた」

「Mですって、それってマゾってことか?」


「詳しいことはわかんないんだけど、そうなんじゃないかな」


 兜はどこまで分かって答えているのだろうか。

 まあ、苦しいことや痛みが性的な快感に変わってそれを好むものをM(マゾ)とは言うが、そんな風に言われてしまうまで我慢してたなんて、葉羽の頑張りはこんなところにまで現れていたのか。


「いつ退院してくるんだ?」


「来週には帰ってくるよ。お兄ちゃんがこっちに戻ってきたこと伝えたら、すごく喜んでたよ」


「そっか」


 なんだか俺は嬉しかった。

 でもそんな嬉しい表情を素直に見せられずに、そっけなく答えてしまった。


 俺は家に戻って、自分の部屋のベッドにゴロンと横たわった。

 自分の部屋といっても、芳郎兄ちゃんの部屋を使わせてもらっている。

 受験戦争に勝ち抜いてきた部屋だから、ここにいるだけで、芳郎兄ちゃんのように頭が良くなるとまで思えてくるほど、その部屋は俺にとっては申し分のない贅沢な部屋だった。


 環境が整った部屋で、暫く葉羽の事を考えてみた。

 俺は葉羽に会ったとき果たして昔のように笑って喜べるだろうか。

 どこか自分の内面を晒すのが怖くて、そして意地を張ってしまいそうで、なんだか不安になってきた。


 それでも葉羽がどんな風に成長しているのか、好奇心は膨れるばかりだった。