そんな時、伯母が救いの手を差し伸べてきた。

 ある日電話が掛かってきたのだ。


「もしもし、悠斗ちゃん。あのね、よかったら伯母ちゃんの家からこっちの中学に通わない? 勉強が出来る悠斗ちゃんが学校に行かないなんて絶対おかしいわ。それだけその学校が悠斗ちゃんには合わないんでしょ。だったら伯母ちゃんのところにおいで」


 その言葉を聞いたとき、俺は正直心が揺れ動いた。

 でも素直に承諾できなかった。

 それでも伯母は俺を『うん』というまで優しく説得してくる。


「芳郎も大学に通うために家を出ちゃったし、夫も海外出張が増えて伯母ちゃん一人で寂しいのよ」


 それを言ったら、俺がいなくなったら自分の母親も同じじゃないかと思ったが、伯母の言い分は俺の思考回路を読んでいた。


「ほら、淑子は一人になっても心配いらないから。むしろこういうときは、一人になった方が楽になるんじゃないかな」


 淑子とは俺の母の名前だった。


「淑子は離婚してずっと働きづめでしょ。悠斗ちゃんのこと心配しながら働くのも辛いと思う。だから中学に通う間だけ伯母ちゃんのところにおいで」


 母はきっと伯母に泣き付いたんだと思う。

 自分が離婚したことで息子に精神的に苦労をかけた負い目がある。

 そこに急に学校にも行かず、体についた傷を見てしまったら母親も心配しておかしくなってくるかもしれない。


 俺は暫く無言だったが、いつまでも諦めない伯母の説得をいい事に、結局はタイミングを見計らって承諾することにした。


「うん、わかった」


 俺の小さな声が伯母の耳にも伝わる。


「そう、よかったわ。じゃあ、転校手続きとったら早速おいで。待ってるからね」


 伯母との電話での話し合いが終わるとため息がこぼれた。