「葉羽ちゃん、どうしてこれが欲しいんだい」


 サボテン爺さんが不思議に思ったのは、そのサボテンはどこか元気がなく少し枯れかけていたからだった。

 目の前には青々と形のいい元気なサボテンがあるのに、葉羽はなぜそのサボテンを選んだのだろう。

 俺も不思議に思っていると、葉羽は優等生が授業中に当てられて模範解答をするようにハキハキと答えた。


「この部屋に入ったとき、目と目が合って、話しかけられた気分になりました」


「ほぉ、面白いことを言うのう。これは実はちょっと枯れかけてたからどうしようかと思って、とりあえずここに置いたとこだったんだ。もしかしたら、捨てられるとでも思って助けを求めたのかもしれないな。でもこのサボテンでいいのかい? 枯れてしまうかもしれないよ」


「私、看病してみます。なんだか放っておけなくなりました」


「そっか、それなら別にいいけど」


 葉羽はそのサボテンを無謀にも撫ぜようと、指で軽く触れた。

 案の定、簡単に指に刺さってしまった。


「痛い」


 小さく呟やいて、人差し指を見れば、赤い点を打ったように血がちょっぴり顔を覗かせるくらいに現れた。

 サボテンなんか触るなよと、俺は思ったが、葉羽は「やっちゃった」と舌を出して自分の不器用さを認めていた。

 その時、葉羽の指を刺したサボテンの棘の先端が、仄かに赤く見えたように思えた。


 もしかして葉羽の血?


 目の錯覚だったんだろうけど、それが一瞬にして吸い込まれて消えたようにも見えたので、吸血鬼ならぬ、吸血サボテン? などと一人でバカバカしいことを考えていた。


 俺と兜にもサボテンを薦められたが、俺ははなっから興味がなかったし、兜は葉羽が指を刺した事で危ないものと思って、怖がって断った。


 何気に兜が壁にかかっていた時計を見たとたん、みたいアニメがあるからと思い出したように叫んだので、俺たちはサボテン爺さんの家を去ることにした。