サボテン爺さんの話から始まるのか。


 父の話はとりとめもなく、長くなりそうになってきた。


 ちゃんと僕が聞きたい部分を話してくれるのだろうか。

 でも僕はしっかり耳を傾けた。


 父もまた、僕が交通事故にあって、僕を失う恐怖に身を震わせたと思う。

 心配で心張り裂けそうになっていたに違いない。


 そんな不安を紛らわすかのように、僕の意識が戻らない間、祈る思いでこのサボテンに助けを求めてたんじゃないだろうか。


 だからサボテンは僕に父と母の物語を見せてくれた。

 僕が誕生するまでのいきさつ。

 始まりの前の話。
 
 それがなければ僕は生まれてこないのだから。


 僕の人生を振り返るよりも、父と母の苦労を知ることの方が、僕は死ねないと思った。


 父は全ての事を僕に教えたいのに、自分の事を話すのが照れくさいのか、時々声がくぐもっていた。


「それで、その時、このサボテンをお母さんが欲しいと言ってサボテン爺さんからもらったんだ」

 サボテン爺さんもこの話には欠かせないから、父は丁寧にサボテン爺さんの事を話してくれた。