「はいはい、聞いてますって。だから大事な所も端折らないでちゃんと話してよ。例えば、二人のキスシーンの所とか」


 僕の言葉に、父は思わず持っていたサボテンを落としそうになり、それを受けようと母は慌てていた。

 父は気まずく、コホンと咳払いしてごまかしていた。

 サボテンは寸前のところで母によって支えられたが、サボテン自身なんだかとっても驚いて、いっそう棘がピンと逆立って緊張していたように見えた。


「もう、気をつけてよ、お父さん」


 母が小言を言って、父が苦笑いする。

 窓の外は先ほどよりも暗くなり、空と周りの物の輪郭が徐々にぼやけて同化しつつあった。

 その暮れなずむ空の上で月が顔を出し、白く、くっきりと輝き出していた。


 父は窓際にサボテンを置き、僕たち親子三人は、月の光に照らされたサボテンを期待を込めて暫くじっと見ていた。


「あっ、小さい丸いものが出てきてるね」


 僕がそれに気付いた。

 サボテンの表面からコブのように丸く突き出している部分があった。


「これは、サボテンの子供よ。これを上手く植えたら、増えるかもしれないわね」

 母が言った。


 増えたらまた花を咲かすこともあるのだろうか。

 口に出さずとも、みんな同じことを考えてたことだろう。


 花が咲くことは不思議な力が現れるという事。

 でも二人は、それ以上の奇跡は望んでないように思えた。


「それで、そのサボテンがどうしたの?」


 僕は父に話の催促をした。


「あっ、そうそう、それが不思議なんだけどさ、このサボテン、奇跡を起こすんだ。昔、サボテン爺さんと呼ばれる人が居てな……」