父が母と照れながら顔を見合わせ、僕になぜサボテンを持ってきたか説明しようとする。

 全ての事を見てきたけど、僕は直接父から聞ける話に興味津々になって胸をわくわくさせていた。


 どんな風にあの奇跡の物語を僕に説明するのだろう。

 正直に全てを話してくれるだろうか。


 父も母も僕と同じように悩み、そしてもがいてがむしゃらに突っ走ってきた。

 その結果、二人の奇跡に繋がった。


 この先もまだまだ困難があるのかもしれない。

 でも僕は、どんなに辛くてもなんとかやっていけそうな気がする。


 そういう困難の真っただ中にいる時は、やっぱり辛いと挫折してもがいているんだろうけど、不器用でも諦めない限りぼくもまた、きっと奇跡を起こせると信じようと思う。


 きっとうまくいくように、物事はできている。


 例えその時失敗しても、それがきっとどこかでつながってやっぱり必要な事だったと後から判明して、辛い事を笑い飛ばせるように。

 いつか上手く行くと心に思い浮かべるだけで、なんだか勇気が湧いてくるようだった。
 

 『勇気』か、その言葉を噛みしめてサボテンを見つめていると、父が注意する。


「おい、勇樹、ちゃんと聞いてるのか」


 そう、僕自身もユウキという名前だった。


 教師の父は職業柄、僕をまっとうに育てたかったのか、多少厳しい所がある。


 たくさんの生徒を相手にして、いい先生で通ってるので、自分の息子をしっかり育てなければ恥と思っていたに違いない。


 そして、僕と父は外見も性格も良く似ている。

 同じ性格だからこそ、お互い欠点ばかりが目について、それが自分に返ってくるから、見ていて嫌になってしまう。


 だから僕たち親子は衝突しやすかった。

 多感な時期の僕には、表面だけしかみられなくって、父の気持ちなど考える余裕などなかった。


 でも、今なら父の気持ちが良くわかる。