そのカーテンの端から、父がにゅっと顔を覗かせた。


「なんか楽しそうにしてるけど、二人して何を話してるんだい?」


 その父の顔を見た時、また少年時代の悠斗を思い出す。

 それがとても僕に似ている。

 母が言うように、本当に僕と父はそっくりだと思った。


「なんでもないわ。それより、どうしてそれを持ってきたの?」


 母があっけにとられて、父を見ていた。

 父はあまり病院に相応しくないものを、手に抱えていた。


「いや、今晩、満月だから、なんかつい。こいつもここに来たいって言ってるように思えて。病院で入院といったら、なんかこれも必要な気になって」


 父はあのサボテンを手にしていた。

 このサボテンはずっと家にあって、僕もこれを見て育ってきた。


 棘が一杯だったから、子供の頃何も知らずにそれを触って、刺されて泣いていたと思う。

 だから痛くて怖いものだと認識していた。


 改めてそのサボテンを見れば、棘があっても温かみのある優しいものに見えた。


 父と母が大切にしていたのは知っていたが、その理由が分かった今、僕もまたこのサボテンに愛着を感じる。


 サボテンは棘がありながら、その容姿に似つかないほど、優しく僕たちを見守っていたのかもしれない。

 美しい薔薇には棘があると言われるのなら、優しいサボテンには棘があるということだ。


 僕はそのサボテンをじっと見ていると、父がコホンと喉を鳴らして話し出した。


「あのさ、信じてもらえるかわからないけど、このサボテンはね……」