「美由紀先輩」

 そこにいるのかいないのか、見た目にはわからない。
 けれど、何故か今日は自信があった。

 先輩は今、俺の目の前にいる――。

『こんばんは、詠斗さん。どうしたんです? こんな時間に』

 やっぱり、と心の中で呟きながら詠斗は微かに笑みを零した。

「こんな時間と言うほどでもないでしょう」
『そうですか? もう日が暮れますよ?』
「たまには夜遊びしたっていいじゃないですか。小学生じゃないんだし」
『夜遊びと言うにはまだ少し早い気が』
「先輩が『こんな時間』なんて言うから」

 姿こそ見えないけれど、きっと美由紀は楽しそうに笑っている。そう思うと、詠斗の顔にも自然と笑みが浮かんできた。