「ってか、そんなことを言いにわざわざ来たのか?」
「そんなことってなぁ聞き捨てなんねぇなぁ。間に挟まれるオレの身にもなれっつーの」
「はぁ?」

 真剣な顔をした巧に箸の先を向けられ、詠斗は思わず顔をしかめた。

「たまには自分の気持ちに素直になってみたらどうだ? 詠斗」

 よく響くバリトンボイスが巧の声色だが、今はもう詠斗の耳には届かない。ありし日の声は、頭の中だけで再生される。

「萩谷が嫌々で言ってるんならまだしも、あいつの気持ちは紛れもない本心だ。そいつを無視してお前の思いだけを押し付けるってのは、男としてどうかと思うぞ?」

 やけに真面目なことを口にする巧に、詠斗はため息をついた。
 そんなこと、言われなくたってわかってる――そう言いたげな顔をしてしまったことは、巧にバレているだろうか。