花火大会とお墓参りとコンクールの日に、ただゆっくりと近付いていく。誰も、早くその日が来て欲しいと思った人間はいないだろう。

 コンクールと同じで、約束の日に向けて朝陽と乃々は準備が必要だった。どうすれば、紫乃と彩の二人を救うことができるのか。それを、考えなければいけなかった。

 しかし、そう簡単に全てが丸く収まる解決法など見つからない。何度か紫乃が眠った九時以降もずっと起きたままで、彼女のことを観察していた。ふと起きた時に、彩が出て来てくれないかという淡い期待があったから。

 結果は、そう都合よくは行かない。

 夜通し朝陽と乃々が交代で観察をしていても、彩が出てくることはなかった。

 結局その日まで具体的な解決策は思い浮かばず、浜織を離れる瞬間がやってくる。乃々は別れ際、とても申し訳なさそうな表情を浮かべながら、朝陽へ謝罪した。

「ごめんなさい。何も解決策が思い浮かばなくて……朝陽さんに、全部任せることになってしまって……」
「ううん。乃々さんは悪くないよ。誰も、悪くなんてない」

 そう言って頭を撫でてあげると、彼女は瞳に涙をためた。しかしぎゅっと目をつぶり、それが溢れてこないようにしてしまう。

 彼女は強い女の子だと、朝陽は改めて感じた。

「何か思いついたら、すぐに連絡します」
「うん。お願いするよ」

 さすがに娘が二人とも長い間家に帰らなければ両親が心配するため、乃々だけは実家へ帰ることになったのだ。今は麻倉家の前で、朝陽と紫乃と乃々は見送られている。

 この時にはもう、乃々はいつも通りの彼女に戻っていた。

「二人がいなくなるなんて、お姉ちゃんは悲しいよー!」
「わっ!」

 朝美は突然二人に抱きつき、驚いた紫乃は短い驚きの声を上げた。しかしそれほど慌てふためいていないのは、この一週間で随分と距離が縮まったからなのだろう。

「こらこら朝美、そんな子どもっぽいことしない!」
「だってぇ!」
「お姉さん落ち着いてください。乃々は時間さえあれば、またこっちに遊びに来ますよ!」
「ほんとっ!?」
「はい!」
「じゃあ、紫乃ちゃんは?!」
「えっと……」

 本当なら、またここに来ることを朝美に伝えたかったのだろう。しかし紫乃は、もう戻ってこないと決めている。

 朝陽が引き止めようとしても折れなかったのだから、彼女の決意は固かった。しかし泣きそうな顔になりながらも、それでも紫乃は精一杯の微笑みを見せた。

「また、ここに来ます」

 その笑顔に、朝美も安心したように微笑んだ。

「紫乃さん、また一緒にこちらへ遊びに来ましょうか。今度は、お姉ちゃんも一緒に」
「うん。また、来れたらいいな……」

 それは、願望だった。

 紫乃も、本当にそれを望んでいるのだろう。だけど心がそれを許してはくれない。彼女の表情は、みるみるうちに沈んでいく。

 別れ際に、そんな表情を紫乃も見せたくはないだろう。そう考えた朝陽は彼女の肩に手を置いて、「それじゃあ、行ってきます」と挨拶した。

 そして三人で麻倉家を離れる。

 歩きながらふと覗いた彼女の瞳からは、大粒の涙が流れていた。