紫乃は女の子なのだ。軽々しく、泊まっていきなよと言ってはいけない気がする。

 だから迷ってしまったけれど、結局それを提案することはできなかった。

 中途半端に引き止められた紫乃は、不思議そうに目を丸めて朝陽を見た。

「どうしたの?」
「あ、ううん。やっぱりなんでもない……」
「そう?」

 それじゃ、またね。

 そう言って、紫乃は旅行カバンを引きずって歩いていった。それを曲がり角を曲がるまで見送った後、再び珠樹に袖を掴まれる。

「詳しく聞かせて」
「あ、うん」
「とりあえず、駅前のカレー屋」

 そんな珠樹に、朝陽はくすりと微笑んだ。

「カレーは嫌いじゃなかったの?」
「好きじゃないだけ。嫌いでもない」

 素直じゃないなぁと朝陽は思いながら、珠樹に案内されて駅前のカレー屋へと向かった。