正直に言おう、たぶん僕は嬉野さんのことが好きなんだ。だけどその気持ちを素直に彼女にぶつけていいものなのか、ずっと迷っている。

 嬉野さんに向ける好意の何倍もの感情を、彼女は僕に向けてくれているからだ。それが怖かった。

 果たして僕は、同じほどの愛情を嬉野さんへ注げるのだろうか。中途半端な気持ちは、嬉野さんを傷つけることになる。

 そういうことを考えると、出しかけた言葉は喉の奥へと引っ込んでしまった。

 やがて嬉野さんは「今日はほんとにありがとね、おやすみ公生くん」と言った。僕も「おやすみ」と言って目を閉じる。
誰かと一緒に眠るというのはとても安心するけど、相手が相手だから変に緊張してしまった。割とすぐに嬉野さんの小さな寝息が聞こえてきて、僕はただ平常心を保つことを意識している。
すぐに眠ったのは、それほど僕のことを信頼してくれているからなんだろう。なんとも思っていない異性なら、こんなにすぐには寝られない。
 目を閉じてなるべく何も考えないように試みたけど無駄だった。結局僕は一睡も出来ずに朝を迎えて、嬉野さんが起き上がったのを見てから、さも今僕も起きましたよ感を出して起き上がった。

 嬉野さんの髪は横へ跳ねていて、少しだけよだれが垂れている。無防備だなと思った。僕に、にへらと笑いかけて「おはよ、公生くん。とってもよく寝られたよ」と言った。そのとても嬉しそうな表情を見ていれば、よく寝られたんだということはすぐに想像がつく。

 対照的に僕は寝不足だったから、それを悟られないように笑みを浮かべた。

「おはよ、嬉野さん」

 色々と思うところはあるけれど、幸せな朝だった。